ミステリー 娯楽としての読書

年末年始の静かな時間に、一冊のミステリーに没頭しました。クリステン・ペリンの『白薔薇殺人事件』(創元推理文庫)です。 アガサ・クリスティーやエラリー・クイーンといった「黄金時代」の香りを漂わせるタイトルに惹かれ、手に取りましたが、期待通り現代を舞台に古典的な謎解きが展開される一品でした。
好きな音楽を流し、コーヒーやウィスキーを片手にページをめくる。自分で犯人を見つけたいけれど、見事に騙される意外性も味わいたい。そんなミステリー特有の「矛盾した期待」を抱きながら過ごす時間は、現代において非常に贅沢なものだと感じます。
【過去と現在が交錯する、緻密な仕掛け】
物語は、主人公アニーの大叔母フランシスが何者かに殺害されるところから始まります。 舞台はイギリスの田舎町にある広大な屋敷。そこには「殺人、予言、遺産相続」といった、ミステリー好きにはたまらない仕掛けがふんだんに盛り込まれています。
最大の特徴は、被害者のフランシスが「60年前から自分が殺されることを予言されていた」という点です。彼女はその予言を信じ、自らの殺害犯を特定するための資料を生前から集めていました。 ストーリーは現代の捜査と、彼女が残した日記(過去)が交互に語られ、やがてそれらが重なり合って一つの真相へと収束していきます。村の住人たちが抱える秘密が露わになるにつれ、疑わしい人物が次々と入れ替わる感覚は、まさに本格ミステリーの醍醐味です。
【等身大の主人公、アニーの魅力】
人公のアニーは、ミステリー作家を志す若い女性です。 彼女の視点を通して描かれる「男性へのシビアな評価」や「鋭いファッション観察」は、女性ならではの感性が光り、作品に新鮮な風を吹き込んでいます。また、ストーリーにもうまくいかされています。
彼女は決して天才的な探偵でも、格闘の達人でもありません。好奇心と使命感だけで突き進む姿は危なっかしくもありますが、その「等身大」のキャラクターゆえに、読者は彼女と並走するように物語に共感できるのです。事件を通じて彼女自身のルーツが明かされていく仕掛けも、物語に厚みを与えています。
【「効率」を忘れ、物語に身を委ねる悦び】
後半、犯人との対決は非常にスリリングで、正体や動機の意外性も申し分ありませんでした。 久しぶりに本格的な謎解きに触れ、伏線を気にしながらじっくり時間をかけて読むことの楽しさを味わいました。
現代は「結論だけ、知識だけを早く得たい」というタイパ重視の読書が溢れています。それだからこそ、本作のような娯楽ミステリーは、時間的な余裕がなければ出会えなかったかもしれません。会社員を辞めた今だからこそ、この「無駄な寄り道」のような読書を心から楽しめたのだと思います。
邦題と原題のニュアンスの違いや、予言の説得力にわずかな不満は残るものの、その邦題に惹かれて本書を手にしたのも事実。複雑な気持ちを抱えつつも、ミステリーを楽しむ「心の余裕」を思い出させてくれた一冊でした。


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