会社の退職、そして知人の一言
会社を辞める時に、理由を問われるのがとにかく煩わしかった。面倒なので「本が読みたいから」と答えたとき、知人からこう言われた。
「それならブログでも始めたら?」
その時の真意は定かではない。多分、その場の思いつきだったのだろう。話題が他に移ってしまったので、僕もたいして気にも留めていなかった。
しかし、最終出勤日が近づくにつれ、「読書のメモ代わりにする」というアイデアは、なかなか良い考えのように思えてきたのだ。
そんな軽い気持ちで始めようとしたことに、すぐに後悔することになる。
「ネットで好きなことを書けばいい」は間違いだった
ブログに対する僕の認識は「ネットで好きなことを書けばいい」という程度のものだった。
年末の退職日まで有給休暇に入り、時間的余裕ができた。「半日もあればできるだろう」という安易な考えで、僕はブログ開設を始めてしまった。
まず、スマホでやろうとしたが無理だった。画面が小さすぎる。
仕事では会社支給のPCを使っていたので、私物のPCを立ち上げるのは久しぶりだ。OSを確認するとWindows 10。既にサポートが終了している上、バージョンアップもできない。
結局、新しいパソコンを買い替えることになり、機種やスペック選びに丸2日を費やした。
ネットで注文したPCが届くまでの間、書店でブログ関連の本を2冊購入し、準備勉強を始めた。ついでに気になった、関係ない本も3冊購入。長倉顕太著の『移動する人はうまくいく』が、僕の状況に合っていて、特におもしろく読みふけってしまった。
それでもブログは始まらない
待望のパソコンが届き、セットアップに丸1日を費やした。
次に、レンタルサーバーとドメインの契約だ。
ここから先、意味不明の言葉が、タイトル戦のボクサーのパンチのように襲い掛かってくる。もう、KO寸前だった。
「SSL?パーマリンク?プラグインって何なんだよ!」
本には「アクセス数を増やすには」「収益化がどうのこうの」と丁寧に書かれているが、こっちはそれどころではない。動画を見ても、僕が手間取っている間に、どんどん先へ行ってしまう。何度も見直しながら、やり直す。
有給休暇中なのに、まるで休日出勤やサービス残業をしているようだった。
何度も自分でタオルを投げ込みたくなったが、諦めなかったのには理由がある。あまり深く考えないまま、レンタルサーバーを3年も契約してしまっていたからだ。
何を書けばいいのかわからない
どうにかブログを始める準備はできた。体裁はこれから整えればいい。
いざ、最初の原稿を書こうとして、僕は何も書くことがないことに気が付いた。
読書メモのつもりだったが、実際に書き始めると読み手を意識してしまう。さらに、今読みたい本は、読了に数日から数カ月はかかりそうな本ばかりだ。それに、「ブログを書くために読む」というのは、本末転倒になってしまう気がした。
仕事では毎日それなりに文章を書いてきた。提案書や報告書、メールなど、膨大な量を処理してきた。どう書くか迷うことはあっても、「何を書けばいいかわからない」という経験はなかったのに。
気持ちを言葉にすることの難しさ
仕事における文章は、考えを言葉にするものだった。そこには目的があり、それに対する自分の考えを書けばよかった。どう書くかというテンプレートもあった。
だが、それは僕がブログで本当に書きたい言葉ではなかった。
長く勤めた会社を辞めて自由になることの、開放感や、同時に湧き出る不安を言葉にしたかったのだ。それは、考えではなく、気持ちを言葉にすることなのだろう。
でも、それは難しい。ブログを立ち上げるよりずっと難しい。
諦めずに、立ち上がり、この気持ちと向き合っていくしかないのだろう。


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