コストコの「楽しい脅威」とは?行動心理学で解き明かす成功の裏側と買い物体験

ビジネス 経済
富士山の見えるコストコ

コストコ:楽しい脅威 —— スーパーの越境進出と戦略の正体

最近、東海地方を拠点とするスーパー「バロー」の関東進出が話題となった。 関東の「オーケー」や「ロピア」が関西へ、九州の「トライアル」が全国へと店舗を広げるなど、地方スーパーによる「越境進出」が激化している。

そんな中、国境を越えて進出してきたのが「コストコ」だ。 調べてみると、2025年12月時点で日本国内に37店舗を展開している。先日、私は2025年4月に山梨県にオープンした「コストコ南アルプス倉庫店」を訪れた。平日にもかかわらず店内は活気にあふれ、ちょっと覗くだけのつもりが、ガソリンを入れ、食料品や雑貨を買い、フードコートでホットドッグまで楽しんで、気づけば1万円ほど支払っていた。

かつてカルフールやテスコ、ウォルマートといった外資系小売巨頭が日本市場に挑んだが、その多くは撤退を余儀なくされた。彼らは資本力を武器にした「低価格戦略」を基本としていた。

では、なぜコストコだけが日本でこれほどの成功を収めているのか。 その理由は、日本の小売スタイルに中途半端に迎合せず、アメリカ本国のスタイルを貫いた点にある。コストコへ行くことは、日本にいながら海外の空気を手軽に味わえる「体験」なのだ。業種は異なるが、東京ディズニーランドと同じ「体験戦略」である。

買い物をエンターテインメントへと昇華させ、国内スーパーとの圧倒的な差別化を図る。利用者の目的は「買い物」そのものではなく、「コストコへ行くこと」に変わっているのだ。

合理的で狡猾なビジネスモデル

今回は、その「楽しさ」の裏側にある、したたかなビジネス戦略に注目してみたい。 コストコは徹底した合理主義に基づき、最新のビジネスサイエンスや行動心理学を取り入れている。客の「買い物への抵抗感」を巧みに取り払う、そのモデルを探ってみよう。

金銭感覚を狂わせるレイアウト(アンカリング効果)

入店してまず目に飛び込んでくるのは、数十万円もする大型テレビや冷蔵庫だ。いきなり家電を買う客は稀だが、この配置には重要な役割がある。 コストコの食料品は大容量ゆえに、一品あたりの単価は1,000円を軽く超える。しかし、最初に高額な家電を目にすることで、その後の食料品が安く感じられてしまうのだ。もし逆のレイアウトだったら、食料品を「高い」と感じてしまい、購入金額は大幅に下がっていただろう。

巨大なカートの心理的罠

見学だけのはずが…

コストコには買い物かごがなく、通常のスーパーの倍ほどもある巨大なカートを利用する。 このサイズが曲者だ。大きな商品を数個入れた程度ではスペースがスカスカに見えてしまい、心理的に「まだ余裕がある」と感じて余計なものまで放り込んでしまう。会計時に金額を見て驚くのは、この「カートを埋めたい」という心理を突かれているからだ。

あえて絞り込まれた品揃え

店内には商品が溢れているように見えるが、実は品揃え(SKU数)は意外と少ない。これは管理コストの削減だけでなく、客の「選択のストレス」を軽減する効果がある。 一般的なスーパーでパンを選ぼうとすると、種類や個数に迷い、考えるのが面倒になって買うのをやめてしまうこともある。しかしコストコは「これ一択」という大容量の商品が並ぶ。買うか買わないかのシンプルな選択に追い込み、思考の負担を減らすことで、客は直感的に商品を手に取ってしまうのだ。

会費の元を取りたい心理と広域集客

約5,000円の年会費も強力なフックだ。「会費を払った分、利用しないと損だ」という心理が働き、来店頻度が高まる。 また、コストコは広大な商圏をターゲットにしている。南アルプス倉庫店も、山梨県内だけでなく長野県や静岡県東部をカバーする好立地にある。駐車場を見れば1割以上が県外ナンバーであり、遠方から来た客ほど「せっかく来たのだから」と大量購入に走る。

さらに、併設のガソリンスタンドが近隣よりリッター20円ほど安いことも、遠方からの交通費負担を感じさせない巧妙な仕組みだ。

地域スーパーにとっての脅威

コストコが進出すれば、周辺のスーパーには深刻な影響が出る。 日常の細かな買い物には向かないが、一度コストコでまとめ買いをされると、地域スーパーへの来店頻度は確実に下がる。しかも、コストコの客層は消費が活発な現役世代や大家族といった「優良顧客」が多い。この層を奪われるのは、既存の小売店にとって大きな痛手となるだろう。

非日常を味わう「買い物体験」

それでも人々がコストコに惹かれるのは、やはり他では味わえないワクワク感があるからだ。 自社ブランド「カークランド」や珍しい輸入食材、季節感あふれる巨大なディスプレイ。「一体誰が買うんだ」と突っ込みたくなるようなサーフボードや本格グリルにまで胸が躍る。日常の延長線上で非日常を味わえるのが、コストコの真の正体かもしれない。

最後はやっぱりホットドッグ

コストコに行ったら、190円のホットドッグ(おかわり自由のドリンク付き)は外せない。 セルフで玉ねぎを盛り、ケチャップをかける。決してスマートには食べられないが、あのボリュームと満足感は格別だ。映画館のセットなら1,000円はする内容が、この価格。 「これだけで会費の元が取れるのでは?」と考えてしまう自分も、すでにコストコの戦略に完全にはまっている一人なのだ。

もうすぐ会員更新の時期が来る。 ホットドッグのために更新するかどうか……。いっそコストコの近くに引っ越せれば、なんて本気で考えてしまうのだから、その魅力はやはり「脅威」だ。

コメント

タイトルとURLをコピーしました