アンドリュー・マカフィー著『ギーク思考』(日本経済新聞出版)

💡 成長のカギは「企業文化」にある
急成長を遂げる海外企業、例えばアマゾン、テスラ、あるいはOpenAIなどに対し、自分の会社とは何かが違うと感じているビジネスパーソンは多いでしょう。これらの成長企業は様々な観点から分析されていますが、経営者のカリスマ性や最新技術の優位性といった要素は、特殊な事例として実務に活かすのは難しいのが現状です。
本書では、従来の企業とそれら成長企業との**「企業文化の違い」に焦点を当てて分析しています。異なる業態の急成長企業に共通する文化を見出し、そのような企業文化を生み出す「ギーク思考」**こそが、彼らの成長の原動力であると主張しています。
ギーク企業の特徴は、以下の**「スピード」「オーナーシップ」「サイエンス」「オープンネス」**の4項目で分析されています。
ビジネスパーソンであれば、本書を読むことで自社と比較し、成長を阻害する要因を把握できるかもしれません。ただ、要因を把握できたとしても、改善できるかどうかは別問題です。
**「ギーク(変わり者)思考」**は、従来の企業では異端と見なされ、排除の対象になる可能性が高いものです。そのため、若手や中間管理職層が、自力で会社を変えようと考えること自体がまれでしょう。経営層であっても、口では成長を謳いながら、行動は現状維持というケースが多いと感じます。
私自身も長く会社員として働いてきたため、会社が本来の目的以外のことに多くの労力を費やし、非効率さを感じながらも、いつしか諦めていました。
しかし、それだけに組織全体を目標・目的に向けて動かすことができれば、圧倒的な競争力を発揮できるとも思うのです。
また、そこまで大きな変革を望まなくても、本書を読むことで自身の会社の将来性を測ることができます。そして、会社の将来性を踏まえた人生設計を考える上でも役立つでしょう。
🚀 成功を分ける「ビジネスのスピード」
本書で取り上げられた企業文化の4項目は互いに関連し合いますが、その根底には**「いかにスピードを上げるか」**があります。
現代のビジネス環境においてスピードが重要であることは、ビジネスパーソンなら誰もが承知しています。様々な分野で技術進歩が加速しているため、ビジネスも素早く対応していかなければ、時代遅れになってしまうからです。
従来企業では、綿密な計画を重視してきました。企業戦略を作成し、行動に落とし込んでいくやり方です。
一方、ギーク企業は素早い行動が重要視されます。ビジネスモデルは極力早い段階で市場へ投入し、反応を得る。そこから改善点を見出し、再度投入する。このサイクルを素早く回すことでビジネスモデルが完成され、しかも環境の変化も取り込みやすくなります。
私の経験でも、ロジカルシンキングなどのフレームワークに時間をかけるよりも、**「やれることから実行した方が生産性は高かった」**と感じています。現場の反応を得ることで、行動しながら考え、より効果的な改善を行うことができるからです。また、たとえ失敗であっても時間の浪費は抑えられ、貴重な経験として活かすこともできます。
しかし、残念ながら組織はスピードを阻害する要因を自ら作り出してしまいがちです。
⛔ オーナーシップを阻む「官僚主義の壁」
組織が大きくなるほど、部署や役職が増え、手続きが煩雑になります。
このような官僚主義化した組織では、仕事の根回しや承認処理などで、労力と時間を費やすことになり、当然、スピードは削がれてしまいます。
その弊害を取り除くために、ギーク企業では、個人への権限と責任を高めることで、素早い判断と実行を可能にしています。
私も書類を通すために、細かな見直しや修正を都度指摘され、何度もやり取りを繰り返した経験があります。一度に指摘してもらえれば、まとめて処理できて時間の短縮になったはずです。そもそも、組織が煩雑になりすぎて、どこにどう通せばよいか分からずに、調べたり確認をとったりすることに時間をとられることも多々ありました。その時間を営業活動に充てることができれば、利益に直結し、少なくとも残業は削減できたはずです。
📊 対等な議論を促す「サイエンス」の力
最近、某大企業の不適切会計が問題となりましたが、ワンマン経営による弊害がその要因の一つともいわれています。
組織はその性質上、上位下達となりがちです。指示が地位や経験、あるいはレトリックで出される場合、それは主観でしかありません。時には組織の目的にそぐわない保身で出される場合もあり、そうなれば失敗や不祥事につながるリスクも高まります。
ギーク企業では、データや実験といった客観的な判断基準を取り入れ、立場にとらわれずに正しい判断を下すための議論が求められます。
私も管理職だった時、上層部から現場を無視した思い付きのような指示が出されるのを散々経験しました。同時にいくつもの指示があらゆる部署から出され、すべてが「最優先」になる、といったことも多かったですね。
時間や人員的にどう考えてもできないことをやらせようとするため、組織に歪みが生じてしまうのです。
🌐 競争優位を生む「オープンネス」と共有
組織の目的と個人の目的が乖離することで、様々な弊害が生じます。
個人は、会社が求める成果ではなく、地位や保身を追求しがちです。成果ではなく評価のために行動し、社内政治が生まれると、権限を維持するために知識や情報の占有が起こります。
ギーク企業では、誰もが必要な知識や情報にアクセスできるようにすることで、目的を共有します。また、共有により異論反論を含め、様々な考えを取り入れ検討することで、組織全体の成長を促します。
情報の漏洩を防ぎながら、必要な情報に手軽にアクセスできる仕組みをいかに作るか、というのはかなり難しい課題であり、リスクも高くコストもかかります。しかし、これが実現できれば組織全体の能力が底上げされ、競争に優位性が生まれることは間違いありません。
📈 ギーク企業で求められる「個人の能力」
ギーク思考では、従来企業とは異なる手段で企業の成長を促進します。当然、働く個人に求められる能力も従来企業とは異なってきます。
そもそもこれは、従業員個々の能力を企業目的のために最大化する思考ともいえるでしょう。
「スピード」「オーナーシップ」「サイエンス」「オープンネス」の実現には、社内的地位に関係なく、全従業員の学習能力、適応能力の向上が求められます。
成長力のある企業で働きたいと誰もが考えますが、「ただ乗り」は許されません。個人も組織の成長に合わせて、能力を向上させていく必要があります。
国際的な競争が避けられない日本企業でも、今後はこのような傾向が強まると考えられます。
本書は、これから覚悟を決めていくための参考にもなるので、読んで損はない一冊でした。


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